多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?

多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome, PCOS)は、女性の月経不順の一般的な原因のひとつです。この疾患は、単に月経周期が乱れるだけでなく、ホルモンバランスの異常により、さまざまな症状を引き起こします。
PCOSの主な症状には、体毛の増加、ニキビや肌荒れ、肥満や体重増加、そして血糖値や血圧の異常を伴う代謝症候群などがあります。これらの症状は個人差があり、明確な特徴が見られない「非典型的PCOS」も存在するため、正確な診断には医師による評価が必要です。
PCOSの治療には薬物療法だけでなく、食事や生活習慣の改善も重要な役割を果たします。

PCOSと肥満の関係

PCOSの女性の50%以上 が過体重または肥満状態にあるとされています。
過剰な体脂肪はインスリン抵抗性 を引き起こし、次のような悪循環を生みます。

  1. 体の細胞が インスリンに反応しにくくなる
  2. 正常な血糖値を維持するために 過剰なインスリンが分泌される
  3. 男性ホルモン(アンドロゲン)が増加 し、月経不順や排卵障害を引き起こす
  4. 血糖代謝が乱れ、卵胞の成長が阻害される

減量のメリット

PCOSの治療において、適度な減量は重要な役割を果たします。特に、体重を5~10%減らすことで、ホルモンバランスが改善され、月経周期が整いやすくなります。また、男性ホルモンの濃度が低下し、排卵の異常が改善される可能性が高まります。
さらに、体重の減少はインスリン抵抗性の改善にもつながり、血糖コントロールがしやすくなるため、糖代謝の安定にも貢献します。
標準体重であっても、体脂肪率が高い場合は注意が必要です。見た目が細身でも体脂肪が高い人は、脂肪の蓄積がホルモンバランスに悪影響を与えることがあります。そのため、単に体重を減らすのではなく、適切な食事と運動を通じて体脂肪をコントロールすることが大切です。

PCOSの肥満指標

①BMI(ボディマス指数)

BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²
例:身長160cm、体重80kg → BMI 31.3(中等度肥満)

  • 18.5未満:体重不足
  • 18.5~24:正常範囲
  • 24~27:過体重
  • 27~30:軽度肥満
  • 30~35:中等度肥満
  • 35以上:重度肥満

②体脂肪率

  • 女性(30歳未満):17~24%(理想) / 30%以上(肥満)
  • 女性(30歳以上):20~27%(理想) / 30%以上(肥満)

ウエスト周囲

  • 女性:80cm以上 → 内臓脂肪リスクが高い

肥満を避けて健康的な妊娠を

「体脂肪を減らすには油を完全に避けるべきですか?」という質問をよく受けますが、油を完全に排除するのではなく、良質な脂質を適量摂取することが重要です。脂質は体の正常な機能を維持するために必要不可欠であり、不足するとホルモンバランスが乱れ、内分泌機能の不調を引き起こす可能性があります。
日常的には、ω-3脂肪酸(サーモン、アマニ油、チアシード)やω-9脂肪酸(オリーブオイル、キャノーラ油)などの不飽和脂肪酸を選ぶことが推奨されます。
一方で、排卵障害とトランス脂肪の関連性が指摘されているため、クッキー、バター、クリーマー、揚げ物などのトランス脂肪を多く含む食品はできるだけ控えることが望ましいです。

高繊維食品でインスリン抵抗を改善する

食物繊維はインスリン抵抗を改善し、体脂肪や特に腹部脂肪の減少に役立ちます。日本人の1日当たりの推奨繊維摂取量は25~35gです。

食物繊維を効果的に摂取する方法

  1. 三食のうち少なくとも一食を全粒穀物や根菜類に置き換える。
  2. 一日に少なくとも一皿の野菜を食べる。
  3. 一日に2つの拳大の果物を摂取する。

良質なタンパク質で血糖値を安定させる

適量のタンパク質は血糖値の急上昇を防ぎ、食後の満腹感を持続させる効果があります。
特に、大豆製品(非揚げ物)、白身の肉(鶏肉、魚介類などの低脂肪源)を中心に摂取することで、PCOSの症状改善に役立ちます。

週150分の運動で代謝を向上させる

適度な運動はインスリン抵抗を改善し、体重管理やホルモンバランスの安定にも効果的です。
運動習慣がない場合は、まずは速歩から始め、徐々に歩数や運動の頻度を増やしていくことが推奨されます。

ストレス管理でホルモンバランスを整える

ストレスが続くと、ストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され、インスリン抵抗や体重増加の原因になります。
そのため、十分な睡眠やリラックスできる時間を確保することも、PCOSの管理において重要なポイントです。